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迷走するロケット、舞う<天使>、地を這うドードー(ピンチョン)

カメラは音も立てずに物かげからこっそり(中略)古く変色した銀の冠をかぶっている。

(略)

まるでその一齣が停止して、あの永遠なる黄金の一瞬へと引き延ばされたかのようだ。ま新しく、しかも変色した黄金の一瞬へと。

(略)

古めかしく雨風に傷んだ窓ガラスに、フィルムに収める静止した一瞬、彼女のドレスが、顔が、髪が、手が、ほっそりしたふくらはぎが、すべてガラスと一体になって輝く――それはあちこちに落ちるロケットの爆風に一日中震える半透明な雨の守護神。

(略)

この北方の古い形式――つまり、迷える子どもたち、お菓子の家に住む森の魔女、囚らわれの身、肥え太ること、<オーブン>など――こそ保持すべき自分たちの日常生活、つまり避難所なのだ。かれら三人には耐えられないだろう、外部の――<戦争>、「偶然」の絶対的支配、そのまっただなかに置かれた自分たちの身の上のおぼつかなさなどには……。

(略)

しばしばロケットは狂って、でたらめに方向を変え、キーンというものすごい音を立てて迷走し、回れ右して墜落する。手もつけられず、しかも恐ろしいことに修正もできずに狂ったままで。

(略)

心中ひそかにこれだけは、信じているかもしれない。あらゆる<おとぎ話と神話>のなかでこの形式だけは。つまり、森のなかのこの魔法の館がのちのちまで残り、たとえ偶然にしろここに爆弾が落ちることはないと信じているのだ。

(略)

何のためだったのだろうか。殺戮の海、壊疸の冬と飢えの春、不信心な人物の徹底的追跡、〈獣〉と格闘する真夜中、氷になった汗と青白い雪となった涙、こういった瞬間を求めるのでないとすれば。

(略)

われわれ人間のただの餌食だ。神はそれほど残酷であるはずがない。

(略)

しかし信念に関していえば……かれは手にしている銃という鋼鉄の現実しか信じられない。

(略)

雪がくるくる舞い、目に見えない針が緑色のブラインドのむこうの神経のない窓ガラスにこつこつあたる。フィルムがリールに入れられ、電灯が消され、蛸のグリゴリーはスクリーンに注意をむける。スクリーンにはすでに人影が歩いている。カメラは、(中略)古く変色した銀の冠をかぶっている・・・・・・。